本と映画とDVDはこれを見よ!

ほぼ1日1作品をめざしてレビュー!

ヴェネツィアの宿

硬質な文章から情緒が立ち昇る。

「意志」を文体にすると
こうなるだううという
硬質さで綴られるエッセイだ。
ヨーロッパのホテルの一室から
父の思い出へと回想は広がり、
感情を抑制した文章から、
ときおり立ち昇る思いは
読む者の気持ちを瞬時にかきたたせる。

そして奔放に
ヨーロッパと日本を、
時を行き交うエッセイに見えた物語は、
解説で関川氏が書くように最後の一章で、
融和と和解の物語へと昇華する。

父との葛藤と融和。
それは大きな余韻を
読み手の中に響かせて消えていく。


ヴェネツィアの宿 (文春文庫)ヴェネツィアの宿 (文春文庫)
(1998/08)
須賀 敦子

商品詳細を見る
[ 2012/05/09 10:42 ] | TB(0) | CM(0)

JUNO/ジュノ

タフで元気な女子高生が出会った
人生の真実とは?


本がいい。
スピーディでウィットに富んだ女子高生の
語り口に乗せられて見始めると
いきなり妊娠。しかも中絶もしないで
里子に出すという展開。
ストーリーにのめり込んで
ぐいぐい引っ張られていく。

小さくて、元気が良くて、変わってて
口が立って、タフなヒロインの個性がいい。
男前なんだよね。
そして、里親の夫婦に徐々に問題が出てくる。
ヒロインの父親、まま母、彼氏のキャラクターもいい。
すべてがユーモラスで、けれど、愛情いっぱいで
人生を楽しんでいる。

そして、ラストがいい。
里親夫婦の問題に対して
ヒロインがある決断をする。
そして、妊娠の1年間を通して
ヒロインはある発見をする。
そのすべてが温かくラストへ向かう。

見る者が共感し、ハッピーになれる1本だ。


JUNO/ジュノ (特別編) [DVD]JUNO/ジュノ (特別編) [DVD]
(2010/06/25)
エレン・ペイジ、マイケル・セラ 他

商品詳細を見る

IP/NN 阿部和重傑作集

「ぼく」という幻想。

この本は『インディヴィジュアル・ブロジェクション』と
『ニッポニアニッポン』という
阿部の代表作を1冊にまとめたものである。

感じたのは人称の問題だ。

それは「ぼく」という幻想のありかを
突き詰めていくことになる。

1作目のは主人公は自分をスパイだと思う映写技師だ。
「ぼく」という一人称で書かれることで、
本当にスパイなのか、
身の回りに危機が迫っているのかどうかが
曖昧なままで物語は進んでいく。

「ぼく」の実は平凡な日常が
Гスパイ行為」というフィルターを通すと、
非日常へ様変わりしていく。

本当の「ぼく」は何なのか?
存在自体が揺らいでいく。
これは今を生きる「ぼくたち」の
不在証明のようにも思えてくる。

もう1作は、トキを逃がそうとする「春生」の物語だ。
トキは学名ニッポニアニッポンであり、
まさに日本を解放するという比喩である。
その物語が3人称で書かれることで、
行動の滑稽さが立ち上がってくる。
これもまた「ぼくたち」のもうひとつの姿に思える。
日本の今という現実に閉じ込められて、
「ぼくたち」は歪んでいないだろうか?

「ぼく」という存在の
幻想を暴く1冊だ。


IP/NN 阿部和重傑作集 (講談社文庫)IP/NN 阿部和重傑作集 (講談社文庫)
(2011/07/15)
阿部 和重

商品詳細を見る
[ 2012/04/28 07:16 ] | TB(0) | CM(0)

ゼロ年代の想像力 5

『新世紀エヴァンゲリオン』を超えていく。

第一章 問題設定 九○年代からゼロ年代へ/「失われた十年」の向こう側

2. 一九九五年の「古い想像力」

「大きな物語」の喪失が
もっとも明らかになってきたのが、
ー九九五年前後であると筆者は言う。

その変化はふたつの事象が象徴する。
「平成不況による成長神話の崩壊」と「地下鉄サリン事件」だ。

がんばっても豊かになれず、
意味も価値も社会が与えてくれない。
そうした社会が立ち現れた。

そして、こうした社会状況を背景として出現したのが、
筆者が立ち向かおうとする「古い想像力」である。

がんばってもダメ! 社会も生きる意味を示してくれない。
それはまさに「大きな物語」の喪失であり、
そこからどう生きるかを、
「古い想像力」は引きこもり/心理主義で乗り越えようとした。
筆者はこの古い想像力とは違う形で
「大きな物語」の喪失を乗り越えようとしている。

筆者が「古い想像力」を代表する作品として挙げるのが
『新世紀エヴァンゲリオン』である。

このTVアニメを一言で言うなら、
コミュニケーション不全の少年が
父性と女性と対峙する物語だ。
その結果、「何かを選択すれば必ず誰かを傷つける」ので
「何も選択しないで引きこもる」という
「〜しない」という倫理が立ち現われていると筆者は言う。
引きこもりの正当化がなされていく。

この「引きこもり主義」が解除されていくのが
二〇〇一年だと筆者は言う。


ゼロ年代の想像力 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)ゼロ年代の想像力 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)
(2011/09/09)
宇野常寛

商品詳細を見る
[ 2012/04/07 03:31 ] | TB(0) | CM(0)

平成大家族

大家族はしんどい。けど、おもしろい。

平成の大家族って、
こうやってできるんだよなっていう家族構成。
引退した老夫婦と妻の母に
引きこもりの長男、
自己破産して転がりこんできた長女夫婦と息子、
さらに離婚して帰ってきた次女に妊娠発覚。
かくして8人の大家族は、
敷地内の2軒家と物置に問題を抱えながら
同居することになる。

各章ごとにひとりひとりが抱える問題が重くならず、
軽やかな語り口で語られる。
このリズム感のあるやわらかな調子は
落語の人情物を聞いているようだ。
作者の魅力である。

そして後半いくつかの問題が
家族の関わり合いのなかで
良い方向へ向いていく。
なかでもひきこもりの長男と
ある女性の恋物語は
心がほんわりとしてきた。

ゆるい紐帯としての
平成の大家族像が見えてくる。

平成大家族平成大家族
(2008/02/05)
中島 京子

商品詳細を見る
[ 2012/03/29 10:41 ] | TB(0) | CM(0)
プロフィール

ミツ

Author:ミツ
神奈川県在住の
フリーランスコピーライター。
本と映画を中心に
1日1レビューをめざします。
できない日はごめんなさい。

リンク/画像について

リンク/画像に問題がある場合は
トラバかコメントで書き込みください。
削除いたします。

ブロとも申請フォーム