FC2ブログ

本と映画とDVDはこれを見よ!

ほぼ1日1作品をめざしてレビュー!

ホーム > アーカイブ - 2011年07月

ガタカ

なぜ人は競い合うのだろう?

SFという形式を借りた兄弟の物語だ。

未来。
曲がったキュウリのように
劣勢の遺伝子をもつ者は排除される社会。
兄が心臓に疾患をもつ曲がったキュウリで
弟はまっすぐなキュウリ。
弟はエリートの道を歩み、
兄は劣勢ゆえに就ける職業も限られる。
しかし、兄には宇宙飛行士になりたいという夢があった。
そのために優秀な遺伝子をもちながら
交通事故で足が不自由になった水泳選手と
奇妙な共同生活を始める。
彼の毛髪や血液を譲り受け、彼になりすまし、
宇宙飛行士が所属する『ガタカ』に勤めることに成功する。

この水泳選手を演じているジュード・ロウがいい。
優秀ながら、事故で挫折した
屈折感をアンニュイに激情的に演じている。
そして、ラストの彼の行動も心に痛い。

印象的なシーンがある。
弟と兄とが海の遠泳で競い合うシーンだ。
どこか精子が卵子を求める姿にも似て
男性の骨肉の争いが
本能的に遺伝子に刷り込まれているのではと思ってしまう。

少年時代の遠泳は弟が勝つ。
この二人の競泳はクライマックスでまた登場する。
成人した二人が競い合う。
その勝者は誰なのか。
優秀な遺伝子をもつ弟が勝つのか。
それとも劣勢の遺伝子の兄か。
ちょっとストレートすぎる象徴シーンだが
その結末は想像がつくだろう。

このSFでは『ガタカ』内で殺人事件が起き
兄が犯人の疑いをかけられ
その正体がバレそうになるというサスペンス的要素が
全体を引っ張っていく。

そして。
ラストで刑事になっていた弟と
容疑者の兄の夜の海での遠泳。

エンターテインメントと
シンボル的なストーリーが混在しているが
最後に宇宙船に乗りこむ兄の姿は
まさに劣性遺伝子の勝利なのだろう。

宇宙に出て、その後兄が何を思うか。
そこに興味が惹かれる。

ガタカ [DVD]ガタカ [DVD]
(2009/06/03)
アラン・アーキン、イーサン・ホーク 他

商品詳細を見る
スポンサーサイト



スカイ・クロラ

死を内包した物語。

飛行機は、そもそも死を内包した乗り物である。
それが戦闘機とくれば、死はますますあからさまになる。
その飛行機乗りとして子どもを乗せる。
それがスカイ・クロラの物語の世界である。

空のシーンとした静けさを感じさせるような文章。
淡々とかすな息遣いで語られる物語。

主人公の僕“カンナミ”は草薙水素という女性の上司のもとに赴任する。
ともに大人になるのを拒否したキルドレ。
出会いから、恋愛めいた空気がかすかにたちこめる。
しかし、それは、実は。
僕は優秀なパイロット。
注意深く、手順を踏まえて、敵を撃つ。

物語は飛行シーンと地上シーンとで
異なる空気感を醸す。
飛行シーンは精密なマシーンのようにマニアックで静謐な孤独。
地上シーンは人との関わりの中での孤独。

キルドレは孤独。
コクピットも孤独。
群衆も孤独。

「理解しようとするほど、遠くなる。
どうしてかっていうと、理解されることが、僕らは嫌なんだ」

「死にたいと思ったことがある?」
「だから、しょっちゅう」

「電話のベルが鳴ったり、止んだりするみたいなものなんだ」

「鳴りっぱなしじゃ煩いし、鳴らなかったら、
 電話がどこにあるのか、みんな忘れてしまう」

そして、キルドレのもう一つの志向は死。

物語はラストへ静かに加速する。
フルスロットルで上昇する飛行機のように。

森博嗣の小説は理科系ミステリーという
新境地を拓いた。

理科系の段階的思考を果てしなく積み重ねて。
あるいは仮説の構築をいくつも繰り返して。
それらは頭脳の中で。
そして、熱の少ない、静かな文章を紡ぐ。
ラストまで一気に。

静けさ。科学の果てのリリカル。
それは宇宙飛行士が地球上に戻って見る
宗教的境地にも似ている。

このスカイ・クロラは
空を飛ぶ物語。
その文章はリリカルで地表を離れて浮遊している。

カンナミは空を飛んで
敵を撃ち落とし
仲間とかすかに触れ合い
草薙という上司と対峙する。
永遠は一瞬。
永遠に大人にならないこと。
永遠は死。
大人にならない子どもは
だから、空を飛ぶ。


スカイ・クロラ (中公文庫)スカイ・クロラ (中公文庫)
(2004/10)
森 博嗣

商品詳細を見る
[ 2011/07/28 11:26 ] | TB(0) | CM(0)

永遠のとなり

落ち込み本がいい。

白石一文氏の本が好きなのは
落ち込み本だからだ。
村上春樹氏の初期の作品もそう。

出てくる主人公はどこか世を諦めていて
それが自分にも通じる。
世を諦めるということは
どこかで自分も諦めている。
そういう意味では太宰にも通じる。
そんな本を読むとちょっと落ち込む。
そして少し自分と人生について考える。
そんな時間が逆に
自分が生きていることを感じさせてくれる。
あるいは。青春時代を思い出させてくれる。

さて『永遠のとなり』。
改めて書いてみて、この題名からしてそう。
人間のことだよね。
永遠のとなりにいるやるせなさ。
でもそこにいるしかない諦念。
そこからの生きざま。

主人公は部下の自殺などから、うつ病になって
ふるさとの博多に帰っている。
小学校以来の親友は肺がんを発病している。
この二人を中心にした日常の物語だ。

自分って何?
人生って何?
そんな言葉がところどころに散りばめられる。

「おそらく人間は自らの孤独と向き合わなければ、
 自身の真価を見出すことがむずかしい生き物なのだ、
 と最近思うようになった。
 幼い頃の私に欠けていたのは、
 その孤独と向き合う力だったような気がする」

「わしは最近、大事なんは生きとるちゅうことだけで、
 幸せなんてグリコのおまけみたいなもんやと思うとる」

「お惣菜屋は女の敵かも」

それからごく日常の食事シーンが妙にリアルで
おいしそうなのも白石氏の魅力だ。

この本は病と生をモチーフにしながら
生きることの意味を声高にではなく
はすに構えながらも模索している。
それでも、生きている。
そのことに意味がある。
そのことにしか意味はない。

落ち込み本はそんなことを
改めて教えてくれる。

永遠のとなり (文春文庫)永遠のとなり (文春文庫)
(2010/03)
白石 一文

商品詳細を見る
[ 2011/07/27 11:45 ] | TB(0) | CM(0)

プリンセス・トヨトミ

いずれ劣らぬ強烈キャラに脱帽。

プリンセストヨトミ。
大阪では豊臣秀吉の末裔を
密かに守り続ける組織があった。
こんな奇想天外な設定に驚かされ
読む始める方も多いだろう。
僕もそうだった。

しかし。
万城目学氏の真骨頂は
こうした設定はもちろんだが
何より破天荒にズレているキャラクターにある。
女装したい中学生男子。
男顔負けの元気女子中学生。
大阪国総理大臣はお好み焼屋のおやじ。
外国人に見まがう女性調査員。
眉間にシワの調査員チーフ。

こうした奇天烈な設定が
感動ものや感涙ものになろうとすると
一気にコメディへと引き戻す。
キャラクターを躍らせることに
生きがいを感じているのか。
安っぽい感動なんかさせてやるもんか
ってな反骨心か。

物語は会計検査院の調査員3人が
大阪の会計監査でおかしな点を
見つけたところから始まる。
大阪国が動き出すシーンは心がドーンと動く。

しかし。
最初に読み始める段には
居心地の悪さがあった。
東京近郊に住む関東文化圏の人間としては
大阪に乗り込む調査員と同じ心境。

そして、
この物語には対立項がいくつもある。
この東京VS大阪

男VS女

そして、奇妙なキャラクターたちが
異化効果を発揮する。

物語の進行をねじらせていく。
それこそが万城目ワールド。

奇妙にねじくれた物語を通っていくと
そこには現実の奇妙さが浮き彫りになってくるのだ。

しかし。
関西人にとって
豊臣秀吉は心の拠り所にする人物なのだ。
関東人の徳川家康への対抗心も大いにそこにはある。
逆に関東人はそれほど徳川に思い入れもない。
そのギャップがまたねじれを生んでいく。

ああ。ねじれねじれて。
日本はここまでやってきた。
だから。
大阪国もあながち……。ひょっとしたら。


プリンセス・トヨトミ (文春文庫)プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
(2011/04/08)
万城目 学

商品詳細を見る
[ 2011/07/26 10:31 ] | TB(0) | CM(0)

天使と悪魔

聖なる覗き見。

ヴァチカン教皇選挙の内幕を覗く興味。
そして、スリリングな殺人事件の刺激。
スピード感あふれるアクション。
前作よりエンターティメント性を一気に高めた
宗教象徴学者ラングドン教授の第2弾。

タイトルが気になる。
2項対立は人間の性(さが)か。
特に文科系の人間は
頭の中で物事を言葉に置き換えて整理・記憶する。
その際、2項対立はもっともわかりやすい。
いわく。
善と悪。
男と女。
赤ん坊と老人。
自然と人工。
しかし。
すべての存在は
デジタル的に
2項で割り切れない。
アナログ的に片側から片側へスロープを降りるように諧調する。
そして、ひょっとしたら円環しているのかもしれない。

というような。
戯言を履きたくなるほど
天使と悪魔という
2項対立は刺激的だ。

冒頭。
ある実験施設から貴重な物質が盗まれる。
そして、舞台は一転。
コンクラーベと呼ばれる
ヴァチカンの教皇選挙から
物語は動き出す。

見たことのない教皇選挙の内幕を見る覗き趣味。
好奇心は止められない。
そして、教皇候補者が殺害されていく刺激的な展開。
トム・ハンクス演じるラングドン教授の登場だ。
宗教を背景にした濃密な舞台。
教皇の秘書的なユアン・マクレガーのうさんくささもいい。
イルミナティーという秘密結社の存在が明らかになっていき
ラングドン教授と紅一点の女性学者との
秘密を暴く冒険が始まる。
そこには次々と教皇候補者の殺人もからんで
アクションシーンも豊富にドラマティックな展開を見せる。

犯人はカトリック教会に対抗する
イルミナティーか。
白か黒か。
神か悪魔か。

爆発物を処理するために
天に昇ったユアン。
そして舞い降りるユアン。
天使と悪魔を象徴する場面だ。

そして、2項背反は
1枚のカードの裏表。
いや、宗教という一つの球体の光と影。

ここに至って
タイトルの天使と悪魔が
大きくクローズアップしてくる。

天使降臨。
悪魔再臨。
さて、どちらなのか。


天使と悪魔 スペシャル・エディション(1枚組) [Blu-ray]天使と悪魔 スペシャル・エディション(1枚組) [Blu-ray]
(2010/04/16)
ユアン・マクレガー、トム・ハンクス 他

商品詳細を見る

戦力外通告

55歳。
人生の通知表を考える年代。


主人公はリストラされた55歳。
お金に困るわけでもなく、
時間だけが豊富にある。
クラス会で再開した
旧友の悩み相談に乗り
かつての憧れの女性と近くなって行く。

55歳は中途半端な年齢だ。
主人公はこう感慨する。
「ゴールはかすかにだが見えている。
 しかし、あとふたつも三つも
 山を登り下りしなければ
 ゴールには辿り着かない」

思うならば、人生の通知表がそろそろ出そうな年代。
自分の人生はどうだったのか、
現実にも足を取られながらも
人生の総決算を意識する年代。

通知表の評価項目は何だろうか。

資産。恋愛。生きがい。

他人からどう見られるか。
自分がどこまで満足しているか。
他者志向だったり、自己志向だったり。

家とか、車とか、家族とか、お墓とか、
別荘とか、見た目とか、社会的地位とか。

そんなふうに他者評価と自己評価の間を揺れ動き
今をもがき続ける。
まだまだ先は長い。そんな年代。

主人公は幼なじみと恋愛をする。
それは“昔の恋”。
火がつくが、やはり長続きはしない。
それは“昔の恋”だから。

そして、妻との関係。
それは“今の問題”。
妻は働き始め
新しい恋を得ている。
しかし、どこへ行こうとしているのか
そこがわからない。

さらに将来への思い。
主人公はその日その日を生きて
しかし、自分のゴールを
意識せざるを得ない。
それは“明日の通知表”。

そんな昨日、今日、明日を生きながら
主人公は再び会社に復帰する。
クラス会のメンバーの問題にともに悩み傷つきながらも
“明日の通知表”を目指して。


戦力外通告 (講談社文庫)戦力外通告 (講談社文庫)
(2010/05/14)
藤田 宜永

商品詳細を見る
[ 2011/07/21 12:31 ] | TB(0) | CM(0)

炎のメモリアル

“いのち”のロウソクを守る映画だ。

消防士が主役、“いのち”がテーマだ。

消防士は消えそうになる
“いのち”のロウソクを守る仕事だ。
自らの“いのち”を賭してまで。

物語は主役の消防士が
現場で人を助けたあと
火災の爆発で階下に落下し
危機的状況になり
過去を回想するシーンから展開する。

新人時代から始まり
隊長、そして、仲間との出会い。
最愛の女性との巡り合いが描かれていく。

現場での事故による仲間のケガ。
テレビに映った夫の映像に
不安を感じる妻の心。
1週間で離婚した隊長の話。
次第に“いのち”のロウソクを守る仕事の
深みや大変さが描かれていく。

なぜ“いのち”を守るのか。
“いのち”を危険にさらしてまで。
その答えは最後まで明確には語られない。
むしろ観る者に投げかけられているようだ。

“ヒーロー”たちは陽気にふるまう。
ジョークを飛ばし合う。
笑顔をはじけさせる。
だからこそ、過酷な現場がクローズアップされる。

この映画は“家族”の物語でもある。
主人公を子どもと妻が気遣う。心配する。
彼自身も家族のために心が揺れる。
「本当にその仕事が好きと言えるのか?」
隊長の問いが胸に迫る。
しかし、主人公はプライドをもって
仕事を続ける。

ラスト。
主人公は自ら過酷な選択をする。
“いのち”を守るために
“ヒーロー”となる。
“家族”への思いを秘めながら。

日常の隣で“いのち”のドラマが日々起こっている。
私たちはもう一度“いのち”について沈潜する。
“家族”へ思いを巡らす。
そして、現代の“ヒーロー”が
隣にいることに気づく。
そんな映画だ。


炎のメモリアル プレミアム・エディション [DVD]炎のメモリアル プレミアム・エディション [DVD]
(2005/09/22)
ホアキン・フェニックス、ジョン・トラボルタ 他

商品詳細を見る

かたみ歌

あの世とこの世は
思いでつながっている。
そこを行き交うことができる
アカシア商店街。
切ないのに、なぜか懐かしい連作集。


物語は私と比沙子が
その町に移り住むところから始まる。

紫陽花のころ。

古いアパートの二階に住むことになった二人。
荷物はほとんどない引越し。

お昼を買いに出た私は
『幸子書房』という小さな古本屋を見つける。
和菓子屋で干瓢巻きを買って帰ろうとすると道に迷う。
そこで見かけたのは電柱の陰から
「喜楽軒」というラーメン屋を覗く男だった。

実はそのラーメン屋のご主人は数週間前に
物取りに殺されていた。
そして、そのラーメン屋には
脳に障害がある子どもがいるという。
そう教えてくれたのは『幸子書房』の芥川似の主人だった。

私と比沙子が二人でそのラーメン屋の前を通ると
またその男がいた。
しかし、比沙子には見えない。
私はその男に話しかけた。
すると、その男は「俺が……守らないと」
といって、急に薄くなって夕陽の朱に溶け込んでいった。

男は子どもを守ろうとする主人の幽霊だったのか。

この事件をきっかけに
私と比沙子の関係も変わっていき
終りを告げることになる。
比沙子には、主人と子どもがいたのだ。
子どもの元へと返った比沙子。
ちゃぶ台には紫陽花が置かれていた。

せつなくも、不思議な、
そしてどこか懐かしい物語が紡がれていく。

舞台はアカシア商店街。
どの物語にも『幸子書房』の主人がからんでくる。

慎ましやかに、静かに暮らせたら
どんなにいいだろう。
しかし、人はどうしても
問題や悩みを抱えてしまう。
この世と来世を行き交う言葉や思いが
その問題や悩みを少しだけ
和らげてくれる。
だから、アカシア商店街は
奇妙で、どこか、ほっとする。

連作は次第に絡み合い
最後には大きな物語を紡ぎ出すことを
読む楽しみに伝えておきたい。


かたみ歌 (新潮文庫)かたみ歌 (新潮文庫)
(2008/01/29)
朱川 湊人

商品詳細を見る
[ 2011/07/08 12:17 ] | TB(0) | CM(0)
プロフィール

ミツ

Author:ミツ
神奈川県在住の
フリーランスコピーライター。
本と映画を中心に
1日1レビューをめざします。
できない日はごめんなさい。

リンク/画像について

リンク/画像に問題がある場合は
トラバかコメントで書き込みください。
削除いたします。

月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム