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虐殺器官 本と映画とDVDはこれを見よ!

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虐殺器官

3月3日分。
『虐殺器官』(ぎゃくさつきかん)という書名。
“伊藤計劃”(いとうけいかく)PROJECT ITOHという作者名。
全面漆黒の表紙にあふれだす文字、文字。
読む前から、負のイコン(聖像)が読者をつかむ1冊だ。
2007年のSFベストに選ばれた本作は
意外にも読みやすい。
舞台は近未来。主人公は“ぼく”。
いきなりの戦場シーンから幕が開く。
冒頭で衝撃的なビジュアルを提示し
読者をとらえる映画的な手法。
“ぼく”はアメリカの暗殺部隊の一員。
海外のキーパーソンを暗殺する虐殺器官。
911から始まった近未来。
そこでは、サラエボが核爆弾で消滅し
アメリカは“デリバリーピザの日常”を守るために
テロとの戦いに明け暮れていた。
生態器官を活用した武器群
精神医学による兵士の精神コントロール
これらによって戦いは彩られていた。
ジョン・ポールというアメリカ人が
行くところ行くところに内戦が起こり
“ぼく”を中心とした部隊は
暗殺のために世界を飛び回る。
“ぼく”は母の安楽死を認めた心の痛みがあり
また、死が日常の中で日々戦う痛みがあった。
そこから否が応でも
「生と死」というテーマが浮かび上がってくる。
このSFが読みやすいのは、SFのためのSFではなく
(優れたSFはみなそうだが)
現代を問うたSFだからだ。
著者の伊藤氏は34歳で亡くなった。
著書はわずか数冊。
しかし、この本を読んだだけで
彼の密度はぼくを圧倒した。

印象的なフレイズを。

ぼくにはことばが、人と人のあいだに漂う関係性の網ではなく、
人を規定し、人を拘束する実体として見えていた。

ぼくらは三十だ。ぜんぜん大人になれていない。
少なくともこのアメリカで消費サイクルに組み込まれているあいだは。

ピザ屋がピザを作るように、
戦争もまたある立場からは、単なる業務にすぎないのだ。

人間は、見たいだけしか見えないようにできているんだ。

羽をばたつかせながら、それはぼくの開かれた中指に停まった。
フェロモンを滴らせていた中指に。

CNNのクリップ・チャンネルの世界。
ドミノ・ピザの普遍性。
映画ストリーミングサービスの冒頭十五分。
ある深さまでしか辿られることのない物歴。
ぼくらの倫理的ステージは、
まだそのあたりでうろうろしている。

人々は屍の上に立っていることに気づいていない。

いま、ここにある地獄。
ぼくは自分という地獄に閉じこめられた。

●解説で言及している図書など
ブルース・スターリング『ネットの中の島々』
ブルース・スターリング『ホーリー・ファイアー』
ウィリアム・ギブソン『ニューロマンサー』
グレッグ・イーガン『万物理論』
テッド・チャン『あなたの人生の物語』
小島秀夫監督『スナッチャー』『メタルギア』
黒沢清監督『CURE』
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/02/10)
伊藤計劃

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[ 2010/03/23 11:07 ] | TB(0) | CM(0)
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プロフィール

ミツ

Author:ミツ
神奈川県在住の
フリーランスコピーライター。
本と映画を中心に
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