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雨あがる 本と映画とDVDはこれを見よ!

ほぼ1日1作品をめざしてレビュー!

雨あがる

絶妙の語り口に引き込まれる。

黒澤明の脚本による
遺作ともいうべき映画。
その本の素晴らしさに舌を巻く。

雨の川辺にたたずむ浪人。
宿に戻ったその武士は
妙に腰が低い。
長雨で川止めの庶民と
気さくに話を交わす。

ひょんなことなら
もめ始めた
宿泊者の夜鷹と老人。
浪人は二人を仲裁し
傘を手に出ていく。

浪人はたくさんの食糧とともに
戻ってきた。
そして、人々と始める宴。
踊り歌う人々の中で
夜鷹と老人も心を溶かしていった。

部屋に戻ると
妻が静かに待っていた。
妻に止められていた賭け試合をして、
金子を手にしたのだ。
それを謝る浪人。
最後には笑って許す妻。

この宿での描写が
長いと感じるのは
今のテンポがいい映画に
慣れ過ぎているからか。

しかし、ここをたっぷりと語るのには
大きな意味があることが後にわかる。

黒澤脚本にはそういう意味で
まったく無駄がない。
といって、物語が
やせ細っているわけでもない。
ひとつひとつをていねいに
人間に寄りそいながら描いている。

次の日。
武士のけんかを仲裁したことから
浪人は殿様に城に招かれる。
この殿様がいい。
豪放磊落、きっぷがいい。
構えたところがない。
気さくだ。
殿様というと、
かしこまった印象が強いが
その印象をひっくり返して
どんどん引き込まれていく。

殿様の招きで
剣術の指南代に内定する浪人。

帰って妻に報告する
浪人はほぼ内定だと喜ぶが
妻は何とも言えない顔をする。
この間がいい。
控えめでありながら
しっかりとした女性として
描かれている。

そして、指南代を試す御前試合。
ここで浪人は強さを発揮する。
浪人は柔らかな物腰ながら
腕前を発揮する。
しかし、ここでやらかしてしまう。

さらに帰り道で
待ち伏せしていた町道場の
男たちと切り合うことになる。
すべてを峰打ちでかわすが
道場主は味方同士の相打ちで
首から血を吹いて倒れる。
この地の赤がその後を予感させる。

物語が大きく動いていく。

果たして浪人は指南代になれるのか。
この辺になると
主人公に感情移入して
目が離せなくなる。

ゆっくりと描き始めながら
語り口で、物語の思わぬ展開で
それぞれのキャラクター造形の妙で
観る者をひきつける黒澤脚本。
本当によく練られていると思う。

晴れわたった翌朝。
浪人は宿でじれながら使者を待つ。
この辺の人間味もいい。

そして、重臣が使者として来る。
答えは?
賭け試合をしたことがわかり
指南代の話はご破算と告げられる。

すると、ここまで静かな存在だった
妻が強い口調で語り始める。

「何をしたかより、
何のためにしたかが大切です。
でくの坊のあなたたちには
この人の良さはわかりません」

これまでの抑制された存在であった妻の
静から動への転換は
観る者を快哉させ、
妻の浪人への愛を感じさせられる。
この映画の白眉となる場面だ。

浪人と妻は旅立つ。
川を渡り、山道へと向かう。

その頃。
城内ではその話を聞いて
殿様はなぜ機転を利かせて
浪人を採用しなかったかと
重臣を責める。

そして、自ら馬を駆り
川を走り、山道を駆け
浪人を迎えようとする。

峠に出た浪人と妻は
そこから見える景色の美しさに
感嘆していた。
幸せな瞬間。
物語はここで終わる。

観る者としては
殿様との再会を
心待ちにしていたが
そこを描かないところが
黒澤の黒澤たるゆえんだろう。

士官がダメになった。
しかし、そのことはきれいさっぱり
諦めると、浪人は決めた。

妻は強いけれど、うまく世を渡れない
浪人がいいと愛情を深めた。

その寄り添う幸せの象徴が
峠で観た海の風景だ。

このラストシーンだからこそ、
この物語は
余韻が深く暖かい。

いずれは殿様が追いつき
士官となるハッピーエンドは
それぞれの心の中で
エンドロールとして流れるだろう。

人間味があり、出会う人にやさしい。
しかし、うまくいなかい。
そんな浪人の人間味に共感する。
浪人を暖かく見つめる妻の存在が
心に響く。

一級のエンターテイメントとは
CGを多用したテンポの良い作品とは限らない。
人間を見つめ、人間を描き
観る者を引き込む物語を展開する
そんな脚本があってこそ
映画は真のエンターティメントとなる。

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(2011/11/25)
寺尾聰、宮崎美子 他

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プロフィール

ミツ

Author:ミツ
神奈川県在住の
フリーランスコピーライター。
本と映画を中心に
1日1レビューをめざします。
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