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通天閣

これは奇跡の物語。

100円ショップの商品を作る工場で働く男。
場末のスナックでアルバイトする女。
きらきら輝いていない2人の物語。
しかし、これは確かに奇跡の物語だ。

毎日。
僕たちの日常だってこんな感じだろう。
とりたてて素晴らしいこともなく
小さなことで心を振り回される。
男と女の二人の毎日が交互に描かれる。
しかし、二人の息づかいまで
確かに聞こえるような筆致だ。
毎日。
繰り返し。
気持ち。
その中で小さなエピソードが
積み重ねられていく。

二人の主人公は
まったく関係がないように思える。
その二人のストーリーに共通するのは
止まった時。
男の部屋にある電池を抜いた
多くの時計がその象徴だ。
男はかつて一緒に暮らした女とその連れ子と別れ
一人だけでいる。
毎日100円ショップの商品である
「ライト兄弟」という懐中電灯を作り続ける。

一方女は同棲していた男がニューヨークで
映像作家になると出て行った。
そして、自分がこんなところで働いていると
男への当てつけのようにスナックで働く。

二人に共通するのは止まった時。
それでも生きている。それでも生きていく。
僕たちも同じように。

そして、ラスト近く。
タイトルにもなっている通天閣で
事件は起きる。
男はあるアクションを起こし
女はそれを見る。
二人のつながりも明らかになってくる。
そして、二人は刹那すれ違う。
それとも知らずに。
これはやはり奇跡だ。
思えば、今こうやって生きていることも
いくばくかの人と袖をふれあって生きていることも。
そして、縁ある二人が束の間同じ場所に居合わせたことも。

作者は感動的な出会いは用意しない。
二人は同じ場にいたことも知らずに
それぞれの日常に戻っていく。
しかし、わずかの変化の予兆が生まれる。
かすかな、ささやかな変化。
しかし、それは止まった時計を動かそうとする
変化に感じられる。

作者が生まれ育った大阪という土地に
この物語が置かれたこともまた奇跡だ。
東京では通俗に流れ過ぎてしまったであろう
今という時代のかすかな物語の手ざわりがそこにある。


通天閣 (ちくま文庫)通天閣 (ちくま文庫)
(2009/12/09)
西 加奈子

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[ 2012/11/02 11:02 ] | TB(0) | CM(0)
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ミツ

Author:ミツ
神奈川県在住の
フリーランスコピーライター。
本と映画を中心に
1日1レビューをめざします。
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